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2019.07.01

M&A成功確率向上のポイント-買収後の管理

2019.07.01

最近、企業の経営戦略の一手段としてM&Aを活用される事例が増えており、これに伴って当社でも買い手企業様から財務デューデリジェンス(買収対象会社に対する財務調査)の依頼を受けるケースが増えています。

財務デューデリジェンスを実施する際には、対象会社の財務内容に関する調査に加えて、買収後に求められる管理体制を実現するために対応すべき課題の洗い出しを行います。対応すべき課題は買い手企業が求める管理レベルによっても異なりますが、今回のコラムでは、その代表的なものについて項目に分けて解説を行います。

(1)経理体制

未上場会社では、経理財務業務について長期間にわたり特定の担当者が実施しているケースや1名で担当しているケースがあります。この場合、長年相互牽制が効かない状況が続いており、その担当者独自のルールで経理処理が行われている場合や不正が行われていることも珍しくありません

記帳担当者と財務担当者の分離やチェック体制を構築するとともに、従来の業務に加えて下記(2)~(5)のような項目についても対応が必要となるため、経理体制の増強が求められます。

(2)会計処理基準

会計処理基準として現金主義を採用している会社については、会社の実態B/Sや実態損益を把握するために発生主義への修正を行います。発生主義への修正は、売掛金や買掛金、経過・未経過勘定の計上のほか、引当金の計上や減損会計、退職給付会計、資産除去債務会計等の適用、買い手企業がIFRS(国際財務報告基準)を採用している場合にはIFRSを適用した場合の影響額の算定を行います。

なお、これらの修正事項は財務デューデリジェンスにおいて抽出されますので、これを毎月または毎期の決算において帳簿に反映することになります。

(3)原価計算の実施

買収対象会社がメーカーの場合、期末決算における在庫評価について製品は売価の60%、仕掛品は40%など、売価に一定率を乗じて算定し、原価計算を実施していないケースもよく見受けられます。税務上は一定の在庫評価方法を毎期継続して適用していれば指摘されない場合もありますが、製造原価を正しく把握して製品別採算管理に役立てるためにも適正な原価計算を実施することが必要です

原価計算制度の導入は、最終的にはシステム対応されるケースがほとんどですが、原価計算方法の検討にあたっては機械製造業であれば部品展開表、食品製造業であればレシピなど、製品の製造に必要な原材料投入量等をまとめたものが多くの場合用意されていますので、これらをヒントに原価計算方法を決めていきます。

(4)月次計算の早期化

買収対象会社の中には、月次決算の確定までに1ヶ月以上かかる会社も多くあります。月次決算は会社の任意ですので期限はなく、中には月次決算を行っていない会社もあります。

しかし、月次決算の本来の目的は、毎月の業績や資産・負債の状況を把握し、1ヶ月間の成績を検証して翌月以降の経営に役立てることです。したがって、まずはできるだけ早く月次決算を確定させて会社の現状をいち早く把握することが重要です。なお、上場会社の場合には一般的に翌月10~15日頃には月次決算を確定させています。

(5)報告体制

上記(4)に関連しますが、月次決算を実施していてもその結果は社長のみに報告され、幹部には共有されず取締役会も開催されていないケースもよく見受けられます。この場合、明確な目標や目的がないまま日常業務が行われているおそれがあります。

取締役会は、会社の現状を把握し、問題点や今後の方向性を検討し、意思決定する場です。毎月の月次決算を取締役会に報告し、改善策の検討や翌月以降の行動指針の策定に役立てることにより会社経営のPDCAサイクルが確立されます。また、買収後には親会社への報告も毎月行われることになります。

デューデリジェンスの課題を洗い出し実態を把握することがポイント

このように買収対象企業からみれば、これまでの経理業務に加えて「量」及び「スピード」への対応が短期間で求められることになります。

「やること」と「やらないこと」を決めたうえで、新しく「やること」についてはその目的と優先順位を明確に経理担当者に伝えることにより、売り手と買い手が目標を共有してM&Aを成功に導いていただきたいと思います。

デューデリジェンスの課題を洗い出し実態を把握することがポイント

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