新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急事態宣言を受け、各上場企業は過去に例のない期末決算実務に直面しています。
金融庁からも「従業員や監査業務に従事する者の安全確保に十分な配慮を行いながら、例年とは異なるスケジュールも想定して、決算及び監査の業務を遂行していく」よう要請がされている状況にあります。(参考:金融庁「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」)
2020年3月期決算の動向を複数回に分けてご紹介していますが、今回はリモートワーク環境下における、上場企業の決算実務や監査対応についてみていきたいと思います。
■決算発表延期の動向 ⇒トピック「コロナ禍に伴う3月期決算の動向とポイント」
■当期末における決算発表上の留意点 ⇒トピック「コロナ禍に伴う3月期決算の動向とポイント」
■リモートワーク環境下における決算作業及び監査対応
■金融庁、公認会計士協会、東証による連絡協議会の動向
■感染症対策の視点における株主総会運営上の留意点
リモートワーク環境下における決算業務
-利便性とセキュリティ、内部統制とのバランス-
2020年3月期の決算発表延期を表明した上場企業の多くは、在宅勤務、交代勤務や時差出勤対応による決算の遅れを理由の一つとして挙げています。ここでは、リモートワーク環境下において具体的にどういった決算業務がなされるのか考えてみたいと思います。
1.会計システムへのアクセス
リモートワーク環境下において会計システムへのアクセスを行うためには、少なくとも下記をクリアする必要があります。
●経理担当職員へのノートPC貸与
●社内ネットワークに外部からアクセスするための環境整備
●セキュリティリスクに対する対応
上場企業で利用している会計システムは、専用ソフトウエアをPCにダウンロードした上で社内ネットワークへ接続する事で利用可能な物も多いと思われます。
こういった形式の会計システムを使用している場合、社外からアクセスするためにはVPN回線などの通信環境を整備する事が必要です。ただ、このような環境が整備されたとしても、実務担当者が仕訳を起票する際に必要となる根拠書類が社内で紙面保管されているなどの制約から、完全なリモートワークは難しく、現実的には
「交代勤務をしながらスケジュール遅延を前提として少しずつ決算作業を進める」
という実務に落ち着く会社が多いのではないかと思われます。
なお、上場企業が社内システムへのリモートアクセス環境を整備する際には、J-SOX対応におけるIT全般統制評価への影響にも留意する必要があります。
昨今では専用のソフトウエアを必要とせず、導入が簡単なクラウド型の会計システムも多く販売されておりますが、会計システムの形式に関わらず
●PC貸与者へのセキュリティ教育
●暗号化による情報漏洩防止
●リモートアクセスログの収集
といった複数の内部統制を整備し、確実に運用する事がポイントになります。
2.社内チェック体制
決算業務においては、担当者が起票した決算整理仕訳を上長がチェック・承認し、必要に応じて担当者にフィードバックする、といったプロセスも多いものと思われます。
これまで、紙面に押印やサインを残すという承認作業を行っていた場合、リモートアクセス環境下で承認作業を完結させるためには、例えば次のような手続を採用することが考えられます。
●会計システムに実装されている電子承認機能を利用する
●承認の対象となる書類名と承認した旨をE-mailにて担当者に送る
上長による決算整理仕訳のチェック・承認は、J-SOXにおける整備・運用手続の中でも重要な内部統制(キーコントロール)として監査法人に重点的にチェックされる項目です。
リモートワーク環境下にあっては、押印/サインといった紙面の保存に代わり、何がしかの形で承認行為のログを保管していくことがポイントになります。
リモートワーク環境下における監査手続
会計監査人による期末監査手続は主に下記のような手続から構成されますが、業務の性格上、相手企業に訪問せざるを得ない手続が多く含まれます。
リモートワークでの実施が可能と思われる監査手続の例
●経理担当者から帳簿データの送信を受けて実施する分析手続
●テレビ会議システムもしくはE-mailによる担当者へのヒアリング
●帳簿からチェックする対象取引サンプリング
訪問しないと実施が困難もしくは不可能と思われる監査手続の例
●取引先担当者が出社している前提の残高確認手続
●企業内に保管されている原始帳票の確認
●現物資産の実査
●棚卸資産、工場などの現地視察手続
また、(訪問しないと実施が困難もしくは不可能と思われる監査手続)は、監査手続として重要度が高く、省略や代替が不可能なものが多いため、会計監査人としては「リモートワーク環境下でも出来る監査手続は可能な限り完了させるものの、訪問が必要な手続は緊急事態宣言の動向を見て再度行う」という方針にせざるを得ないと思われます。
このように、会計監査人は「訪問して監査手続を実施しないと監査が終わらない」と考えているであろうことから、監査を受ける会社としては、訪問を受けた際にチェックされる原始帳票などを事前に可能な限り監査人に確認し、備えておくことがポイントとなります。
なお、当期末の決算においては、会計上の見積に関わる論点(固定資産の減損会計、繰延税金資産の回収可能性等)や、その前提として各社が検討する事業計画について、会計監査人が興味を持ってチェックするものと思われます。重要なのは「将来の予測値をどう見積もったか」という点になりますので、リモートワーク環境下においても、テレビ会議システムなどを通じてなるべく事前に会計監査人との協議を進めることもポイントになります。
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