コロナ禍によって大きな影響を受けた2020年3月期決算ですが、上場会社に要請される有価証券報告書の提出も、本年は一律に2020年9月末まで提出期限が延長されています。(参考:2020.4.27公開「コロナ禍に伴う3月期決算の動向とポイント【2020年3月期上場企業決算】」)
実は、2020年3月決算に関する有価証券報告書は、提出期限の延長だけでなく、その記載内容についても大きな改訂がなされている事が注目されています。
かねてより金融庁では、有価証券報告書等を通じた上場企業の開示コンテンツを一層拡充させるためのロードマップを数年にわたって実行している最中にありますが、特に今回の有価証券報告書は、言わば「脱・定型フォーマット」の定性情報記載(企業がどういった事業環境やリスク下にあるかを独自のことばで開示する)がスタートする期でもあります。
今回は、記載の在り方が大きく変わろうとしている有価証券報告書について、以下の視点で考えてみたいと思います。
1.経営者の視点による「脱・定型フォーマット」文章記載
2.要求水準の不明瞭さへの対処
3.新型コロナウイルス感染症拡大と有価証券報告書
1.経営者の視点による「脱・定型フォーマット」文章記載
今回の有価証券報告書に関する改訂は各種ありますが、その目玉とも言えるのが、下記3項目に関する記載拡充の要請です。
●経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
●事業等のリスク
●経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
いずれも項目自体は過年度より存在していますが、今回、その記載内容の拡充が求められることとなりました。改訂の意図としては、
投資家の意思決定に資する観点から、その会社の特性に従った文章を、プラス面だけでなくマイナス面も含めて経営者視点でしっかり記載する事が改めて要請されたもの
と考える事ができます。
これまでの実務対応では、他の上場会社の文例を参考にしたり、場合によっては昨年の文章を数字のみ置き替えたりして開示文書を作成していたケースが多かったのではないかと考えます。
しかし、昨今の厳しい環境においては、経営者によって経営環境やリスクの捉え方、経営方針、財務分析などが大きく異なり、従って個々の企業ごとに開示すべき内容も異なるであろうことから、
昨年までのフォーマット化された文章にとらわれず、各社で改めて記載内容を検討することが後押しされたもの
と考えられます。
2.要求水準の不明瞭さへの対処
では、この改訂を受けて、各企業としてはどこまで書けば「改訂の趣旨を満たした」と言えるのでしょうか?
この改訂により、各企業に求められる記載水準は上がりましたが、「脱・定型フォーマット」とされているとおり、企業の主体性に委ねるという方針から、具体的な雛型は一切示されておりません。そのような中で可能な対応方法としては、下記のような検討を行うことが考えられます。
上記フローチャートの「法令審査用エクセル調査票」は、上場会社が有価証券報告書の提出に併せてかならず提出が求められるものです。(参考:金融庁「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度)」)
実務上、昨年の記載内容をベースに開示文書を作成することが多いと思われますが、最終的に
当調査票に全て「記載している」と回答し、記載箇所が明示できる状態で提出する
必要があります。
3.新型コロナウイルス感染症拡大と有価証券報告書
ここまで見てきた内容に加え、新型コロナウイルス感染症拡大による経済への影響を受け、金融庁では下記の3項目(再掲)における影響分析の記載についても注意を促しています。
●経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
●事業等のリスク
●経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)
さらに、財務諸表の注記項目である「追加情報」についても、新型コロナウイルス感染症拡大に関係した会計上の見積について、どのような仮定を置いたかを具体的に記載することを求めています。
2020年3月期決算は過去に例のない状況で迎えたものであることから、税効果会計や固定資産の減損会計等で利用する将来の事業計画において、感染症の収束予測時期など各企業独自にさまざまな仮定を置いていることが想定されます。
この注記は、会計監査対象項目でもあることから、事前に監査法人とも十分に記載内容を協議する必要があります。
(参考:金融庁「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項及び有価証券報告書レビューの実施について(令和2年度)」)
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