• 新収益認識基準

2020.07.30

独立販売価格の決定に関する課題~待ったなしの新収益認識基準対応

2020.07.30

前回、新収益認識基準の適用指針の『[設例 6-1] インストール・サービス』を題材に、「事実認定の難しさ」について触れると共に、「独立販売価格」について概要を見てきました。

1つの契約に複数の履行義務がある場合、「独立販売価格」に基づいて対価を配分しますが、この独立販売価格が直接観察できない場合は見積る必要があります。今回は「独立販売価格」という難所(その2)として、独立販売価格の決定に関する課題について見ていきます。

1.「独立販売価格」という難所(その2)

もし1つの契約における複数の履行義務の対価が、契約書や見積書にそれぞれ記載してあり、かつ妥当な金額であれば、その金額を用いて収益認識をすればよく、独立販売価格に配分するといった面倒はありません。

しかし実際には、1つの契約に複数の履行義務が含まれている場合、それぞれの独立販売価格と乖離した「値付け」がなされているケースがみられます。

たとえば、会社の価格戦略によって、インストール・サービスの価格を抑えて、その代わりソフトウェア・アップデートやテクニカル・サポートで継続的に利益を確保したいと考えた場合です。

この時、契約書や見積書の金額と、インストール・サービスに見合った対価(独立販売価格)が乖離してしまいます。

このように、会社の価格戦略により売上計上金額に影響が及ばないようにするため、新しい収益認識会計基準では、それぞれの履行義務に見合った収益の金額を計上する目的で、独立販売価格を決定することが求められます。

独立販売価格の決定方法は以下の手順で行います。は以下の手順で行います。

(図:独立販売価格の決定方法)

独立販売価格の決定方法

新しい収益認識会計基準では見積方法は以下の3通りが示されています。

① 調達した市場評価アプローチ
② 予想コストに利益相当額を加算するアプローチ
③ 残余アプローチ

調達した市場評価アプローチ

①調達した市場評価アプローチは、「財又はサービスが販売される市場を評価して、顧客が支払うと見込まれる価格を見積る方法」で、ある程度の販売実績があり、価格データが蓄積されている場合などに適する方法です。

予想コストに利益相当額を加算するアプローチ

②予想コストに利益相当額を加算するアプローチは、「履行義務を充足するために発生するコストを見積り、当該財又はサービスの適切な利益相当額を加算する方法」で、原価が適切に把握できる場合などに適する方法です。

残余アプローチ

③残余アプローチは、「契約における取引価格の総額から契約において約束した他の財又はサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積る方法」で、販売実績が少なく、顧客や販売時期によって販売価格が大きく変動する場合や、販売価格が確定していない場合に限り、使用できる方法です。

また、③残余アプローチは、ある履行義務が、主たる財又はサービスに付随的であり、重要性に乏しい場合にも使用できます。この重要性とは、金額の多寡だけでなく、履行義務の内容(簡単な作業か)や稼働時間(作業時間が限定的か)なども影響します。

この③残余アプローチで気を付けることは、顧客に提供される財又はサービスの価値に見合った金額が配分されているか、評価する必要があるということです。

たとえば独立販売価格のレンジが100千円~150千円(大きく変動する場合)であるのに、残余アプローチを使用して30千円を(レンジを大きく下回って)配分することはできません。これは、新しい収益認識会計基準で頻繁に出現する言葉を借りると「対価を忠実に描写」していない状態といえます。

このような場合には、その他の利用可能なデータを用いるなどして、配分の再検討が必要になります。

2.「独立販売価格」決定の実務対応

上記の通り独立販売価格を決定していきますが、この決定方法(見積方法)は、当然のごとく業務プロセスに組込み、文書化・システム化すると共に、J-SOXの観点からモニタリングを行っていくことになります。その際には以下のような点に留意すべきです。

・独立販売価格の算定に用いる販売価格等のデータがしっかりと整備されているか
・独立販売価格を決定する際のルールや内規は文書化されているか
・そのルールや内規に従って独立販売価格が決定され、承認ルートと証憑を保存しているか

これら一連のプロセスは、売上計上にかかる重要な業務プロセスとして、監査人の内部統制監査の対象になります。

なお、法人税法上では、独立販売価格の配分について、特段定められていませんが、
2018年度の法人税法改正で、新しい収益認識会計基準の考え方が取り込まれたことにより、原則として収益認識会計基準の会計処理がそのまま認められ、別表調整などは必要ないと考えられます。

次回は、「変動対価」という実務に大きな影響を与える可能性のある論点を用いて、収益認識基準対応プロジェクトで直面することが想定される課題について見ていきます


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