新収益認識基準の適用が間近に迫っています。既に会計処理の方向性が固まりつつある会社も多いと思いますが、当該基準は売上高に影響を与える事から、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の対応も必須になるものと考えられます。
今回は
- 全社的な内部統制の評価
- 業務プロセスの評価スコープの考え方
の2点について見てみたいと思います。
全社的な内部統制(全社統制)の評価
全社統制の評価項目は、かねてより実施基準で42項目が例示列挙されており、これに依拠している限り、新基準がスタートしても、会社としてのチェック項目には増減はありません。
しかし、根拠帳票が改訂もしくは新設されている可能性があるため、
“有効”と結論づけるための根拠資料の収集や整備・運用評価結果の記載について留意が必要
となります。
例えば「会計上の見積を決定する際の客観的な実施過程を保持しているか」というチェック項目について、仮に1つの契約に複数の財・サービスが含まれている場合には、契約金額を独立販売価格の比率で按分することがルールとされていますので、この「独立販売価格」をどのような手順で見積もったのか、その手順は客観的な方法といえるのか、といった点を説明しなければなりません。これまでは営業部署などの現場が直感的に判断して按分していても問題として取り上げられなかったものが、新収益認識基準の適用により俄かにクローズアップされる論点となったのです。
全社統制評価は新基準適用の直接的な影響を受けるものではありませんが、その有効性の程度は業務処理統制の評価範囲にも影響を及ぼすことから、新収益認識基準の適用に伴い改廃される規程やマニュアルは適切に整備し運用した上でこれを評価していく必要があります。
業務プロセスの評価スコープの考え方
内部統制の基準上、売上高等の重要性により選定された重要な事業拠点については、「企業の事業活動に大きくかかわる勘定科目」につながる業務プロセスを全て評価対象にする事が要請されており、一般的には売上高、売掛金、棚卸資産につながる業務プロセスが評価対象となることが多いです。
新収益認識基準は売上高に影響を及ぼすことから、業務プロセスの評価にも影響を及ぼすものと考えられます。
計画段階における重要な事業拠点の選定
実務上、重要な事業拠点の選定は売上高を指標として、計画段階では前年度決算数値を用いて選定し、年度末決算後に再度売上高を集計して選定結果を確定させる(計画段階の選定結果の裏付けを取る)パターンが多いです。
(業務プロセス評価のスケジュールイメージ。2022年3月期決算の場合)
2021年6月~7月 | 評価計画策定 売上は2021年3月期実績を利用して重要な事業拠点選定 |
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~2022年3月 | 計画に従って整備・運用評価のうえ不備を集計 |
2022年4月~5月 | 不備対応、ロールフォワード評価及び2022年3月期の実績を利用した計画時選定結果の裏付け |
計画段階で利用する2021年3月期の売上実績は新収益認識基準が適用されていないものであるため、特に売上高に重要な影響がある会社においては、新収益認識基準による影響を織り込んでおかないと、年度末決算後の評価範囲再確認の際に使用される2022年3月期の売上と大きく乖離してしまい、評価範囲の見直しが必要となってしまうことにもなりかねません。
評価範囲の決定は、最終的には評価対象年度(上記の例で言えば2022年3月期)の売上実績をもとに判断される点に注意してください。売上実績確定後に評価範囲の変更を余儀なくされる事がないよう、計画段階で2021年3月期の売上実績を利用する場合には、
新収益認識基準の適用による影響を見越して十分なスコープ設定をする
点に留意が必要です。
新収益認識基準の適用による”重要な拠点“選定結果の変化
全社的な内部統制が有効と判断された会社の場合、売上高等が全体の概ね2/3に達する事業拠点が“重要な事業拠点”とされます。
新収益認識基準の適用により、財務会計上の売上計上額が変わると、適用前後で“重要な事業拠点”も変わる可能性があります。以下に例を挙げてみてみます。
- 事業A:製品Aの製造販売。有償支給取引を整理した結果、売上計上額が100⇒75に減少
- 事業B:外部メーカー製品Bの販売代理店事業。代理人判定された結果、売上計上額が90⇒15に減少
- 事業C:新収益認識基準適用の影響を受けない事業。適用前後共に売上計上額は60
基準適用前 | → | 基準適用後 | ||||
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事業別 | 売上高 | 比率 | 事業別 | 売上高 | 比率 | |
事業A | 100 | 40% | 事業A | 75 | 50% | |
事業B | 90 | 36% | 事業B | 15 | 10% | |
事業C | 60 | 24% | 事業C | 60 | 40% | |
合計 | 250 | 100% | 合計 | 150 | 100% |
この例では、新基準の適用前後で2/3に達する“重要な事業拠点”が「A及びB」から「A及びC」に変動する事となります。事業Cについて新基準適用以前に評価対象としていなかった場合、
新基準適用年度以降新たに業務プロセスの整備・運用状況評価が必要
である点に留意してください。
なお、本事例では新基準適用によって売上高に影響はあっても、取引先との間の債権債務金額は契約内容に変化がなければ基本的に不変であると思われます。
(事業Aにおいては有償支給先との間の未決済債権債務、事業Bにおいては外部メーカーからの仕入債務及び得意先への売掛債権)。
この場合、事業Bに係る売掛金は、重要な事業拠点における勘定科目ではなくなりますが、債権残高は新基準適用前の水準を維持している事になります。
売上高は影響を受けるものの売掛金が従来と変わらないよう場合も、売掛金として見た重要性が引き続き認識される場合は、売掛金に関連する業務プロセスが部分的に評価対象となる可能性がある点にも留意が必要です。