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2020.11.05

PMI~M&Aを”成功した”と言うための最後のピース~

2020.11.05

「M&Aに成功した」と言えるのはどういう状況が達成できた時でしょうか?デューデリジェンスや事業価値算定プロセスを経た契約合意がまずは重要なポイントではありますが、M&Aの目的によっては、その後の「PMI」活動の状況も成否を握るカギとなります。今回はM&Aの目的とPMIの意義を考えていきたいと思います。

目次

1.M&Aの目的とPMIの意義
  1-1.契約合意までのプロセス
  1-2.契約合意後のプロセス~PMI~
  1-3.PMIはなぜ重要か?
2.PMIプロセスにおいて特に検討する必要のある論点
  2-1.組織マネジメント面での検討事項
  (1)経営会議等の会議体
  (2)給与等のバランス
  (3)目標設定・予実管理プロセス
  2-2.業務管理面での検討事項
  (1)業務システム統合
  (2)社内規定マニュアル
  (3)仕入先・顧客の共有によるシナジー効果
  (4)経理体制
まとめ

1.M&Aの目的とPMIの意義

そもそもM&Aを行うことの目的とは何でしょうか?M&Aの目的は一義的に定義づけられるものではありませんが、例えば以下のような事が挙げられます。

  • 同業種会社の統合による商圏顧客の拡大や営業コストの削減
  • 異業種会社への投資による事業ポートフォリオの多角化
  • 後継者不在会社に対する救済
  • 革新的な技術や優秀な人材の獲得

上記以外にも、当事者会社の社内・社外における経営環境によって様々なケースが考えられます。

1-1.契約合意までのプロセス

まずM&Aのプロセスには、ほぼどういったM&Aでも辿る共通の道筋があります。

  • デューデリジェンスや事業価値算定など各種調査
  • 調査を元にした交渉
  • 最終合意した内容の契約書への落とし込み

デューデリジェンスとは、買収前に対象企業を詳細に調査することですが、財務、税務、法務、システム、人材、ビジネスなど様々な種類に分けられます。買収の意思決定をするにあたり、まずデューデリジェンスを行うことにより、実態として含み損を抱えた資産を保有するリスク、簿外負債を追ってしまうリスク、訴訟関係のリスクなどを相当程度軽減することができます。

また、事業価値算定を行うことにより、客観的で合理的な売買価格を算定して交渉の土台とすることができます。これらは、契約合意に向けたプロセスですので、どういった目的のM&Aにおいてもほぼ共通して想定されるものです。

1-2.契約合意後のプロセス~PMI~

M&Aには、その目的としてなにがしかの経営リソースを統合する事が想定されている場合があります。

例えば前述したM&Aの目的(例)のうち

  • 同業種会社の統合による商圏顧客の拡大や営業コストの削減

このような場合には契約合意後にも各種のリソースを実務的に統合するプロセスを継続する必要があります。

当該統合の過程をPMI(Post Merger Integrationの略)と呼びます。
統合する必要のあるリソースとは、人的資源、ITシステム、業務ルール、会社のカルチャーなど様々な種類がありますが、この統合プロセスは、M&Aが目指す統合による効果の在り方によって、フォーカスすべきポイントが変わってきます。

1-3.PMIはなぜ重要か?

例えば、Webシステム開発事業者など労働集約的で専門性の高い企業が、同業者をM&Aにより統合する場合、その目的は人的資源の有効利用によるさらなる収益性の拡大にあるかもしれません。

この場合は人材資源の管理活用の統合にフォーカスしたPMI活動を実施すべきことになります。

また、飲食事業者や小売事業者など立地場所や顧客管理情報の重要性が高い企業が同業社をM&Aにより統合する場合、その目的はマーケティング情報資産の有効活用による収益性の拡大、又物流チャネルの共有化によるコスト削減にあるかも知れません。

この場合は、当事者間の情報資産の統合、物流システムの効果的な統合、自社競合を回避するための近隣立地店舗の統合などにフォーカスしたPMI活動を実施すべきことになります。

このような統合過程で何かしらの問題が生じてしまうと、M&Aのプロセスにおいて時間をかけて交渉をしてきたにも関わらず、M&Aの期待効果を得られないかもしれません。期待効果が得られないばかりでなく、かえって想定しない損失を追う可能性もあります。

また、海外進出のためM&Aを実施したものの数年後、期待効果を得ることができずに大きな損失を出してしまう上場企業のニュースも見ることがあります。日本のM&Aよりも統合プロセスが複雑で難しいことが原因の一つと考えられます。

統合過程で問題が生じている場合は、M&Aを行った目的を改めて振り返り、M&Aの目的と統合作業でフォーカスすべきポイントがしっかりとマッチングしているかどうかに留意する必要があります。

2.PMIプロセスにおいて特に検討する必要のある論点

2-1.組織マネジメント面での検討事項

組織マネジメント面での検討事項は、(1)経営会議等の会議体、(2)給与等のバランス、(3)目標設定・予実管理プロセスなどが挙げられます。実務上は、ここに挙げられている項目全てでなく、M&Aの目的や会社の状況によって、検討事項を組み合わせてPMIの実務を行っていくこととなります。

(1)経営会議等の会議体

M&A前とM&A後では、会議体に変更があることが通常です。会社法における取締役会や監査役の設置と併せて、経営会議、営業会議、開発進捗会議等、事業をきめ細やかに管理するための会議体・コミュニケーション体制をどのようにするかを最初に考えなければなりません。

なお、ベンチャー企業などが買収される場合は会社の意思決定会議体の位置付けが明確に定義されていないケースも考えられますが、親会社が効率的に買収先を管理するためにPMIプロセスの中では適切にデザインしていくこととなります。

また、M&A時の買収対象会社に存在するこういった会議体を構成する役員他の幹部クラスメンバー構成を、M&A前後でどのように変化させるかも重要論点の一つです。

例えば、旧組織から引き続いて関与するメンバーと、親会社などの買手企業から派遣されるメンバーを、人員数的な面でどうバランスさせるかという論点があります。M&Aにおける買収対象会社の意思決定機関には、買手企業から多くのメンバーが派遣されればされるほど買い手側の意思を反映させやすくなり、買手企業の組織文化をなじませやすい点はメリットですが、旧組織のメンバーを幹部クラスとして関与させ続ける事により統合の効果がより高く得られる事もあります。

M&Aの目的として組織文化をどのように融合させるかを念頭において、最適な会議体を設計する必要がある点に留意が必要です。

(2)給与等のバランス

統合前の給与水準と統合後の給与水準に差異がある場合、従業員の間で不公平感が生まれやすい環境になります。例えば、買収対象会社の給与水準が買い手の給与水準よりも高い場合(これが業績不振の原因であったとしても)、買い手の給与水準にいきなり合わせようとすると、従業員のモチベーションは大きく下がってしまいます。

従業員は、会社として最も根本的な経営資源の一つであり、組織全体のモチベーションが下がってしまえば、統合前に計画した事業シナジーを実現できる可能性は低いでしょう。

給与等は統合後に親会社等の方針に従いルールを定めるケースが考えられます。一方で、M&A実施後に大きな給与改定を行うと、従業員の離脱リスクも高くなります。また、売り手の会社売却の目的の1つに雇用の安定が含まれている場合、売り手の意向も十分添えない可能性があります。そこで、1年程度は統合前の給与水準や給与ルールを適用し、統合に慣れた後に、新しい給与水準に変更する方法が作用されることがあります。

給与等のバランスは、国、地域、組織文化、働き方、会社規模、経営状態など複雑な要素が関係してくるセンシティブな問題なため、慎重な検討が求められます。

また、給与だけでなく、勤務地、勤務時間、福利厚生、社内設備などが大きく変わる場合も従業員に大きな影響を与えてしまう可能性があり、統合も慎重に進めなければなりません。

(3)目標設定・予実管理プロセス

M&Aにより大手グループの傘下に入る場合など、グループ共通の目標設定や予実管理プロセスが買い手側であらかじめ整備されているケースがあります。これに合わせて統合前から行っている目標設定・予実管理プロセスをどう変化させていくかが論点となります。

親会社の目線では、共通のフォーマットに落とし込み、同じグループ企業として、統一的なフォーマットや尺度でこのプロセスを実行する事が望まれることになります。一方で、こういった目標設定や予実管理は、買収対象会社では目標とする指標(KPI)がスムーズに把握できる体制となっていない、その指標を重視する行動様式が存在していない、インセンティブ設計が当該指標にリンクしていない(例:従来は売上高至上主義のところに、採算関連の指標が導入しようとする)、あるいは、ビジネスや企業の置かれている状況に応じて、必ずしも統一化されたフォーマットや尺度を使うことが望ましくない場合も多く考えられます(例:事業拡大期に過度に採算性を重視する)。

目標設定・予実管理プロセスの統一に向けたスケジュール感も含めて、最も会社全体で成果の出るように統合を進めることが必要です。

2-2.業務管理面での検討事項

業務管理面での検討事項は、主要なものとして、(1)業務システム統合、(2)社内規定マニュアル、(3)仕入先・顧客の共有によるシナジー効果、(4)経理体制などが挙げられます。業務管理面は、会社に応じて検討すべきことは数多く出てきてしまいますが、M&Aの目的に照らして優先順位を付け、最も効果的なPMIから手を付けていくことが大切です。

(1)業務システム統合

買収先企業が自社と同じ業務システムを使用しているケースは稀でしょう。業務システムを統合することで多くの場合、コスト削減シナジーを享受することができますが、統合には時間も費用もかかります。

業務システムを本当に統合するべきなのか、統合することでどのような効果があるのか、統合までにどのようなシステム改修が必要でどれだけコストがかかるのか等を検討しなければなりません。M&Aの目的に照らして、業務システム統合が大きくコスト削減に寄与する場合、業務システム統合プロジェクトがPMIプロジェクトの大部分を占める場合もあります。

旧組織に使用していた業務システムから親会社等の業務システムに統合する場合、統合にかかる人材配置やコスト配分をどうするかといった実務上の細かい論点が発生しやすい点も留意が必要となります。

(2)社内規定マニュアル

効率的な企業グループ運営のためには、社内規定やマニュアル類を統一することが望ましいとされます。また、M&A前の旧組織に社内規定やマニュアル等が整備されていない場合は企業実態に合わせながら、かつ、従業員が仕事をしやすいように一から整備しなければなりません。

旧組織に社内規定やマニュアルが整備されているケースでは、従業員がすでに旧組織のルールややり方に慣れてしまっている場合があります。新しい組織が舵を切るにあたり、どのタイミングで、どのような社内規定・マニュアルを整備していくか、バランスを取りながら最適な統合方法を考えなければなりません。

また、親会社の社内ポータルサイト等がある場合、グループ入りした会社もすぐに情報を確認できるよう整備する必要があります。社内規定やマニュアルが親会社のポータルサイトに載っている場合はなおさらです。

(3)仕入先・顧客の共有によるシナジー効果

仕入先・顧客の共有によるシナジー効果はM&Aの目的の中でも影響が大きいものの一つです。仕入先の共有によるシナジー効果とは、仕入先を共通にすることで、仕入単価の削減などより有利な条件を引き出す交渉ができるなどの効果です。顧客の共有によるシナジー効果は、顧客に対して、新たに買収した会社の商材をクロスセルすることにより、顧客単価を上げることです。

どちらも仕入先、顧客といったM&Aの当事者でない第三者が登場することが大きなポイントです。統合の直前に仕入先や顧客に対する挨拶回りを実施するなど、仕入先や顧客に不利益を与えないよう配慮する点に留意が必要です。

売上、利益に直接影響が出る統合プロセスの一つですので、重要な仕入先や顧客を失わないよう、統合の設計が極めて重要になります。

(4)経理体制

買収する会社の経理体制、すなわち経理人材や能力が適正水準になっているかの確認を行う必要があります。M&Aの買い手が上場親会社である場合、タイムリーな財務報告が実施できるよう、一定程度のレベルを担保する必要があります。

統合直後は親会社の会計処理に合わせる場合や、連結パッケージへの入力作業、月次決算、四半期決算への対応、内部統制監査など今までとは大きく異なった環境で経理の仕事を行う可能性が出てきます。

仮に旧組織の経理メンバーだけでは、上場グループとしての経理レベルが足りない場合、上場親会社に経理業務を受注する、外部の会計事務所等に外注する、上場親会社などグループ会社から人材を派遣してもらうなどの解決策が挙げられます。

まとめ

今回は、M&Aが本当に成功したというために必要な「PMI」の重要性と考える必要のある重要論点について解説してきました。PMIの具体的な論点を複数挙げていますが、実務上、これ以上に考えなければならない論点もあることと思います。

PMIは統合作業の実施局面で、関係各所との利害調整を中心に様々な困難を向かえる事が多いです。こういった問題が発生した際は、改めてそもそものM&Aの目的に立ち返り、何が優先すべき課題か、全体としての目的を見失わないようにすることが何より肝心です。

ぜひ、最後までPMIのプロジェクトを走り抜けて、M&Aが成功したと心の底から思えるよう尽力してみてください。

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