新収益認識基準は2021年4月以降に開始する事業年度から適用されます。当グループではこれまで、新収益認識基準の実務対応を中心に情報公開を行ってまいりましたが、多くのお客様よりご要望をいただき、業界別の収益認識の論点について解説するシリーズを開始いたしました。初回は小売業について取り上げます。
小売業の販売形態ごとに履行義務を「識別」
最近の主な販売形態として、①店頭販売、②ECサイト、SNS及びショッピングアプリ等を通じた販売、③カタログ販売などがあります。これらの販売形態における履行義務の特徴は、消費者と小売業者との接点が主に「商品の引渡し」の場面となり、履行義務の識別が比較的容易な点にあります。
次に、小売業者と消費者以外の取引形態を考えます。イオンに代表される総合スーパーやデパートなどでは、買取仕入のみでなく、テナントを通じた商品の販売(消化仕入)も行われています。消化仕入の場合、テナントとの間で商品の売買契約を締結し、商品が店頭において販売されたときに仕入計上することになりますので、総合スーパーやデパート側は消費者に対して商品を引渡すという契約の履行について主たる責任や在庫リスクを負わず、商品の価格設定について裁量権を有していません。商品が提供されるように手配する履行義務を負うのみです。
同様にコンビニエンスストアでは、フランチャイズ加盟者に対して商品を販売しているケース及びフランチャイズ契約締結時に加盟者から受け取るフランチャイズ加盟料も収益として認識されています。
このように、小売業1つとっても、履行義務はさまざまであり、また、個々の企業の中でも履行義務が複雑かつ多様化しております。そのため、履行義務を「識別」することが重要となります。
収益認識に係る会計基準の「履行義務の識別」について
収益認識に係る会計基準は、顧客との契約において、収益を認識するまでに5つのステップを踏むことを要請しており、順序だてて体系的に収益を認識することが必要となります。
このうち、2番目のステップである「履行義務の識別」には多くの論点があり、収益認識に係る会計基準が難解と言われる1つの理由ともなっています。履行義務の識別を理解することは、収益認識に係る会計基準を理解する上で大きなポイントとなります。
ここで、「履行義務の識別」の意義を確認しておきたいと思います。
弊社セミナーレポートにおいて、以下の図を掲載しておりますのでご参照ください。当レポートには、履行義務の識別は、売上計上の「くくり」であると説明しています。この「くくり」は、販売管理システムに登録する取引の単位をイメージいただくと分かりやすいかと思います。
契約上の義務と履行義務の相違
それでは、履行義務の具体例を考えていきましょう。
例えば、家電量販店に行ってカメラを購入するとします。家電量販店側では1台のカメラを箱詰めし、お客様にお渡しして代金を受け取り、取引が完結します。ここでの家電量販店側の契約上の義務は、「カメラを引渡す」ということになりますが、お客様にとってはカメラを買って「写真を撮る」ということがニーズとしてありますので、家電量販店としては「『写真が撮れる品質のカメラ』を引渡す」ことが義務となります(品質については通常はメーカーが保証)。
さらに、家電量販店ではメーカー保証だけでなく、家電量販店独自の保証をする場合もあります。この場合の保証が履行義務に該当するかも考える必要があるわけです。
ここで、収益認識基準において履行義務がどのように定義されているかを確認しておきます。
履行義務とは、顧客との契約において、別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)、又は一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)のいずれかを顧客に移転する約束(基準第7項)。
「別個の財又はサービス」は、上記で説明した「くくり」を意味します。カメラの販売の例では「カメラを引渡す」ことと「品質を保証する」ことが別々の履行義務となるのか否か、メーカー保証の場合と家電量販店独自の保証の場合で扱いが異なるのか、について検討が必要となります。