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2019.09.15

セミナーレポート「新しい収益認識基準への対応」2019年からの対応プロジェクト始動に向けて‐対応編

2019.09.15

2018年3月に新たに「収益認識に関する会計基準」が基準化され、2021年4月以降開始する会計年度より強制適用となります。

株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングでは、新基準により収益認識がどのように変わるのか、また業績や業務にどのような影響が及ぶのかを解説するセミナー「新しい収益認識基準への対応」を開催いたしました。

「基礎編」「事例編」「税務編」「対応編」と4つのパートに分け解説を行ったセミナーのなかから、第四部「対応編」を取り上げ、レポートとしてご紹介します。


1.収益の会計処理が変わることによる影響範囲

以下の表は、収益の会計処理が変わることによる影響範囲をまとめたものです。

収益の会計処理が変わることによる影響範囲

(図表1)影響の検討 影響領域とプロジェクトの方向性

①収益の会計処理が変わるため、対応する②原価の計上のタイミングが変わります。そうすると、③業績の数字の出方が変わってきますので、④予算・管理会計を考える企業様が出てくるかもしれません。

⑤収益や原価がこれまでと異なる数値の持ち方になると、例えばこれまで一括処理ができていたのに対して繰延をしなければいけなくなり、何年にもわたり取引を管理する必要が出てきます。

そのように新しい管理対象が出てくると、⑥業務の処理手順が変わってきます。場合によっては⑦業務システムを対応させる必要が出てきますし、そうでない場合は人を介して解決する必要が出てきます。

業務処理手順が変わると、⑧業務リスク・不正のリスクも高まりやすくなり、業務リスクの解消のために➈マニュアルを作成する、教育研修を行うといった必要性も出てきますし、不正リスクの解消のために➉会計・監査をより厳しくしなければならない可能性もあります。

このように、収益の会計処理が変わることによる影響範囲は、可能性を考えただけでも多くの項目にわたります。

自社の影響度合いを測るためには、①収益の会計処理(と②原価の会計処理)を早めに検討しておく必要があります。また、影響が広範囲にわたるため「収益の会計処理」の変更を極力少なくすること、子会社の対応はどのように行うか、それらの検討も必要となってきます。

ここからは③~⑩の項目について掘り下げてみていきます。

2.影響の検討、プロジェクトのカバーするべき範囲

③業績、④予算・管理会計

  • a. 収益計上時期が、直感的に分かりにくくなるかもしれません
    ⇒例)この受注はいつの売上?
  • b. 活動時期と損益反映時期に乖離が生じます
    ⇒例)活動時期に契約が取れたとしても、成果(売上が立つ)は来期になる場合も出てきます
  • c. 評価指標の見直し
    ⇒例)営業部門が獲得した契約に対する売上が3年繰延べられる場合、営業部門の評価は売上で良いのか、という検討が必要になります

⑤数値の持ち方

  • a. 新基準は計算・見積・判断が増えます(例:別個の履行義務とは?契約の結合は必要か?)
  • b. 計上額の妥当性確認が複雑に(例:これまで税抜の請求額=売上高だったが、請求額と収益認識額が一致しなくなる)
  • c. 税務と会計の新たな乖離への対応(例:代理人取引に係る消費税)

⑥業務手順・業務システム、⑦業務リスク

  • a. 決めなければならないこと(会計処理)
    -判断基準(例:別個の履行義務なのか、充足時期はいつなのか。(予めある程度の判断の基準は決めておく)
    -見積もり方法 (例:独立販売価格をどのように決めるか)
    -反映のタイミング (例:日常の処理の中?決算整理?)
  • b. 決めなければならないこと(a.の処理方法)
    -誰が判断?誰が見積?(例:情報と能力があるのは営業部門?経理部門?)
    -どの基礎データを使用?(例:誰も意識してこなかった独立販売価格)
    -判断履歴、計算結果の残し方(例:監査、税務調査対応)
    -判断、計算の適正性担保手続 (例:再現性はあるか?判断の結果だけなら再現性がない)
    -Excel対応?システム対応?(例:引当当、決算整理(洗替)ならExcelで)
  • c. 評価し、必要に応じて改善しなければならないこと
    -業務の効率性、運用体制の安定性・確実性
    -業務リスク、不正リスクの所在・確認
    -リスクに対する統制の妥当性
    ⇒ミスやリスクを抑えるために、➈経理・業務マニュアル/教育研修、➉監査(会計・J-SOX・業務)の対応が必要になってきます。

⑥業務手順・業務システム、⑦業務リスクは判断の難易度に合わせて対応

「定型取引」は判断ポイントを明確にして(事前にルールを決めて)現場で対応が可能ですが、
「非定型」、受注型の取引が多い場合には、判断の難易度が高い(※)こともあるので、マニュアル化で対応するのではなく、「このような取引は経理に事前相談を」というルールに統一するのも対応方法として有効であると思います。

判断の難易度
高い 低い
発生頻度 高い ⅰ 教育、業務マニュアルの充実による対応 ⅲ 標準化・システム化による対応
低い ⅱ 発生時に経理部門を交えて個別に対応 ⅳ いずれの対応でも

(※)判断の難易度が高い取引の例
・長期間に亘る請負業務
・複数商材・付随サービスを含む取引

3.影響の検討、経理処理の簡素化

新しい収益の認識基準で、判断や見積・計算を極力抑えるための、運用指針の免除規定をご紹介します。

3-1.適用指針の「重要性等に関する代替的な取扱い」を活用する

  1. 追加業務に重要性がなければ別個の契約として処理も可(適用指針92)
  2. 重要性の低い約束は履行義務として検討しなくて可(適用指針93)
  3. 期間が短い工事契約・受注制作ソフトウェアは完成時認識で可(適用指針95・96)
  4. 出荷基準も可(適用指針98)
  5. 付随サービスに重要性なければ、独立販売価格の見積もりに残余アプローチも可(適用指針100)
    ⇒例えば、本体にサポートを付けて納める場合。原則では本体価格とサポート価格を分ける必要がありますが、付随サービスに重要性がないと判断されれば、「片方の価格を決め、もう片方は引き算で決める」残余アプローチが可能ですので、価格の決定は一つだけで済ませることができます。
  6. 影響が少なければ、複数の契約を結合しなかったり、単一の履行義務として識別したりできる(適用指針101~103) 等

3-2.上記以外にも一般的に重要性の判断は入る

  • 取引類型を整理し、そもそも重要性の低い取引は新基準適用の検討から外す
  • 現在の社内ルールにおける重要性(進行基準の適用等)は参考にできる

4.新会計基準対応プロジェクト 計画・調査フェーズ

ここからは、新会計基準に対応するプロジェクトの進め方をご紹介します。

まずは初期調査を行います。そして、対応方針が明白ではないものに対して、必要に応じて詳細の調査を行い、対応方針を決定していきます。そして監査法人の協議を経て対応計画の立案を行います。

4-1.初期調査>

初期調査では下記について明らかにしていきます。

・影響のある取引・論点
・影響が及ぶ範囲の想定(業務・システム、子会社等)
・以下(図表2)のいずれのルートにのるか?

初期調査

(図表2)新会計基準対応プロジェクト 初期調査

4-2.詳細調査・対応計画

詳細調査の項目の例として下記が挙げられます。
・取引類型の整理(例:リベートの計算パターン)
・独立販売価格(例:自社の値付の実態)
・顧客との合意実態(例:履行義務・契約間の関係性)

対応計画には下記を盛り込むべきと考えられます。
・新基準適用時期と逆算スケジュール
・対象取引、会計処理、業務、システム、統制
・責任部署、関与部署

4-3.方針決定

初期調査や詳細調査の後の「対応方針決定」。方針決定の内容には下記が例として挙げられますが、
①新基準の下での会計処理(ただし、選べる余地は多くない)
②①で必要となる情報の特定と収集・生成方法
③②の情報システム等への反映方法
④取引実態の見直し(取引見直し、契約書見直し)

特に③の情報システム等への反映方法では下記のように悩ましいことがあります。
・受注登録単位と売上計上単位の乖離
・請求額や課税売上と売上計上額との乖離
・売上調整の業務・管理会計システムへ反映
・連結会社間取引での売上調整状況の共有

5.新会計基準対応プロジェクト 進め方留意点のまとめ

  1. 対応コスト(時間と費用)が多額にのぼることが予想されるor不明なら、初期調査を早く始めたほうが良い(来期の対応予算は必要か?)
  2. 基準への誤解が多い(例:契約書を分ければいいのでしょう?といった簡単なものではありません)
  3. 経理部門のみの打ち合わせより、営業やサービスデリバリーをしている部門など他部門も交えてディスカッションをしておいた方が何倍も有意義な結果が得られると思われます。
  4. 海外子会社(米国基準・IFRS以外)は、明示的な対応が必要
  5. 内部監査やJ-SOXまでが対応すべき範囲
  6. 全社・グループ横断的な対応が発生するため、トップの関与を検討(経理部門だけの問題ではありません)
  7. 主観が避けられない論点もあり、監査法人の巻き込みを検討。(例:容易に利用できる他の資源と組み合わせることにより便益を享受できる?)

「新しい収益認識基準への対応」として、基礎編・事例編・税務編・対応編と4つのパートに分けて実施したセミナーの中から、売上計上ルールの変更により影響を受ける範囲、対応の進め方などを解説する「対応編」をご紹介いたしました。

「新しい収益認識基準への対応」その他のレポートは以下よりご確認いただけます。

株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングでは、「収益認識基準」検討支援サービスを提供しています。

■その1:
<検討支援サービスの流れ(約1か月)>
・事前準備…有価証券報告書、会社ホームページ等の確認をいたします
・ヒアリング…貴社の現状の売上取引について簡単なヒアリングを行います
・報告…作成した報告書をもとに影響を受ける可能性のある取引・論点をご報告いたします

IFRS対応コンサルティング、ディスクローズ支援等の実績を有する経験豊富な公認会計士が皆様のお悩み解決のためにサポートをいたします。お気軽にお問合せください。

■その2:
<監査法人からの宿題対応支援サービス(期間は内容に応じて)>
・監査法人からの指示(内容・スケジュール)と貴社対応体制等についてヒアリング
・宿題の提出期日に向けて対応(ご支援内容は状況に応じて)

IFRS対応コンサルティング、ディスクローズ支援等の実績を有する経験豊富な公認会計士が皆様のお悩み解決のためにサポートをいたします。お気軽にお問合せください。

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