上場企業向けセミナー
「新しい収益認識基準への対応」2019年からの対応プロジェクト始動に向けて
主催:株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング
開催:2019年8月21日
「分かりにくい!」と言われている収益認識基準について、4つのパートに分け分かりやすく解説を行ったセミナー「新しい収益認識基準への対応」。
本基準の基本となる5つのステップを平易な言葉と取引例で理解する「基礎編」に続き、基礎編で理解した5つのステップを実際の取引においてどのように検討するのか、事例を用いて説明する「事例編」のレポート後半をご紹介します。
※セミナー「新しい収益認識基準への対応」事例編(前編)のレポートはこちらからご確認いただけます。
4つのパートに分け解説を行ったセミナーのなかから、前編・後編の2回に分けて「事例編」をご紹介します。
事例編では、下記の5つの事例を取り上げ、「基礎編」の5つのステップとの関係や、実際の取引においてどのように検討を進めたらよいかについて細かく解説を行いました。
事例編のレポート(前編)では1~3について、後編である本レポートでは5・6についてご紹介いたします。
1. 本人と代理人の区分
2. 据付サービス
3. 重要な統合サービス
4. ライセンスの供与
5. カスタマー・ロイヤルティ・プログラム
4 ライセンスの供与
<事例>
A社(当社) | 複合薬Xの特許権ライセンス供与、複合薬Xの製造 |
---|---|
B社 | 顧客 |
取引内容 | ・A社は複合薬Xの特許権ライセンスをB社に供与すると共にB社のために複合薬Xを製造する契約を締結した ・複合薬Xは成熟した製品であり、A社はサポートを行わない ・複合薬Xの製造プロセスは特殊なものではなく、A社以外も製造可能 |
上記の事例では、事例2・3で確認したように複数のサービスを提供しているため、収益認識の5つのステップのうちの「履行義務の識別」、つまり、「ライセンス供与」と「製造サービス」の2つのサービスが別個のものか否かの判断が必要となります。
この事例では、複合薬XはA社以外でも製造できること、また、ライセンスと製造サービスの相互依存性は高くない等の判断から、「ライセンス供与」と「製造サービス」は別個のものと判断しました。
ここで、ライセンス供与が独立の履行義務と整理されましたが、この場合、収益認識のステップの「履行義務の充足」に関係する重要な論点があります。
4-1. 供与するライセンスの内容により、売上計上タイミングが変わる
ライセンス供与を独立の履行義務と判断した場合、それは「アクセスする権利」か「使用する権利」か、いずれを提供するものなのかを検討する必要があります。
なぜなら、どちらを提供するものかによって、収益認識(売上計上)のタイミングに大きな影響が出るからです。
■知的財産にアクセスする権利 = 一定の期間にわたり充足される履行義務として処理
=一定の期間にわたって売上を計上
■知的財産を使用する権利 = 一時点で充足される履行義務として処理
=一時点で充足される履行義務として処理
(図表1)ライセンス供与に関する履行義務の充足検討
4-2. 「アクセスする権利」か「使用する権利」かの識別方法
以下のすべてに該当する場合には「アクセスする権利」に該当します。
(1)ライセンスを供与した会社が、知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約に定められている、もしくは顧客から合理的に期待されていること。
⇒知的財産に著しく影響を与える活動とは…
*知的財産の形態(デザイン、コンテンツ等)、機能性(機能を実行する能力)を著しく変化させると見込まれること。
*顧客が知的財産からの便益を享受する能力が、当該活動により得られる、もしくは当該活動に依存していること(例えば、ブランドからの便益は、
知的財産の価値を補強する、もしくは維持するといった継続的活動から得られるものであることが多い)。
(2)上記(1)の活動により、顧客が直接的に影響を受けること。
(3)上記(1)の活動の結果、活動が生じるにつれて財・サービスが顧客に移転しないこと。
4-3. 事例にあてはめて識別過程を確認
(1)ライセンスを供与した会社が、知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約に定められている、もしくは顧客から合理的に期待されていること。
⇒複合薬Xは成熟した製品であり、A社(当社)が今後継続的なサポート活動を行う必要はない
(2)上記(1)の活動により、顧客が直接的に影響を受けること。
⇒上記(1)より該当なし
(3)上記(1)の活動の結果、活動が生じるにつれて財・サービスが顧客に移転しないこと。
⇒上記(1)より該当なし
上記(1)~(3)に該当しないため、複合薬Xのライセンスは「アクセスする権利」ではなく「使用する権利」と判断できます。
■「アクセスする権利」の例
アクセスする権利について理解を深めるために、別の例として「アニメのキャラクターのライセンス」を挙げて説明をします。
<事例>
A社(当社) | あるアニメのキャラクターのライセンスを5年間にわたり供与 |
---|---|
B社 | 顧客 |
取引内容 | ・キャラクターの画像はストーリーが進むにつれて変化し、顧客はキャラクターを使用する場合、最新の画像の使用が求められる ・顧客は、キャラクターの知名度を高めるためのマーケティング活動などが行われるものと期待している ・顧客に対しては、ライセンスを供与する約束以外に他の履行義務を有していない |
<3つの要件から判断します>
(1)ライセンスを供与した会社が、知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約に定められている、もしくは顧客から合理的に期待されていること。
⇒キャラクターの画像はストーリーが進むにつれて変化すること、また、顧客は、キャラクターの知名度を高めるためのマーケティング活動などが行われるものと期待していることから、当該要件を満たすものと判断されます。
(2)上記(1)の活動により、顧客が直接的に影響を受けること。
⇒顧客はキャラクターを使用する場合、最新の画像の使用が求められることから、当該要件を満たすものと判断されます。
(3)上記(1)の活動の結果、活動が生じるにつれて財・サービスが顧客に移転しないこと。
⇒顧客に対しては、ライセンスを供与する約束以外に他の履行義務を有していないことから、当該要件を満たすものと判断されます。
5 カスタマー・ロイヤルティ・プログラム
<事例>
A社(当社) | 商品購入10円ごとに1ポイント付与するカスタマー・ロイヤルティ・プログラムを提供。将来、顧客がA社の商品を購入する際、1ポイント=1円の値引きを受けることができる |
---|---|
取引内容 | ・X1年度中に顧客はA社商品を100,000円購入し10,000ポイント獲得 ・A社はこの時点で将来9,500ポイントが交換されると見込んだ ・その後、X2年度末において交換されるポイントの見積りを9,700ポイントに見直した |
最後の事例では、カスタマー・ロイヤルティ・プログラム(ポイント制度)の会計処理について解説を行います。
5-1.カスタマー・ロイヤルティ・プログラムにおける履行義務と取引価格の配分
収益認識基準では、カスタマー・ロイヤルティ・プログラムによる「ポイントの付与」が履行義務として識別されることになります。
従って、この事例の場合は、A社商品の販売取引に「商品販売」と「ポイントの付与」の2つの履行義務が含まれていると整理されます。
ここで、この2つを別個の履行義務と判断した場合、A社商品の販売価格をどのように「商品販売」と「ポイントの付与」に分けるかを考えなければなりません。これが、収益認識の4つめのステップ「取引価格をどのように配分するのか」の論点となります。
取引価格の配分にあたっては、取引開始日の独立販売価格を入手し、その比率に基づき配分する必要があります。
通常は、独立販売価格を直接観察できないことが多いと思われますが、その場合には、合理的に入手できるすべての情報に基づき独立販売価格を見積ることが必要とされています。
(図表2)契約に複数の履行義務が含まれている場合の「取引価格の配分」の検討
5-2. カスタマー・ロイヤルティ・プログラムの会計処理
今回の事例における会計処理を確認していきます。
<事例におけるポイントの状況は以下の通りです>
(付与ポイント:10,000) | X1年度 | X2年度 |
---|---|---|
各年度に交換されたポイント | 4,500 | 4,000 |
決算日までに交換されたポイント累計 | 4,500 | 8,500 |
交換されると見込むポイント総数 | 9,500 | 9,700 |
(1)商品販売時
現状、「ポイント引当金」は売上とは関係なく負債項目の引当金として計上されていますが、収益認識基準においてはポイントの付与は「履行義務」として認識されるため、売上高を配分する仕訳が必要となります。
貸方 | 借方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 10,000円 | 売上高(商品) | 91,324円 |
契約負債(ポイント) | 8,676円 |
※販売価格100,000円を商品(独立販売価格100,000円)とポイント(独立販売価格9,500円)に独立販売価格の比率で按分する。
商品 100,000円×100,000/(100,000+9,500)=91,324円
ポイント 100,000円× 9,500/(100,000+9,500)=8,676円
(2)X1年度末、交換されたポイントについて収益を認識する
ポイントが実際に使われた場合、契約負債(ポイント引当に相当する部分)を取り崩して売上に振り替えます。
貸方 | 借方 | ||
---|---|---|---|
契約負債 | 4,110円 | 売上高 | 4,110円 |
※X1年に交換されたポイント 4,500
契約負債として認識しているポイント(=交換されると見込んでいるポイント) 9,500
当初の契約負債残高8,676円×4,500/9,500=4,110円
(3)X2年度末、交換されたポイントについて収益を認識する
貸方 | 借方 | ||
---|---|---|---|
契約負債 | 3,493円 | 売上高 | 3,493円 |
※X1年とX 2年に交換されたポイント合計 8,500
契約負債として認識しているポイント(=交換されると見込んでいるポイント) 9,700
当初の契約負債残高8,676円×8,500/9,700 - X 1年の収益認識額4,110円=3,493円
カスタマー・ロイヤルティ・プログラムの会計処理にあたっては、ポイントの付与数や使用数、失効状況等のデータ把握が必要になります。現状、ポイント引当金を計上している企業においてはこういったデータはすでに把握されていると思いますが、今までポイント引当金を計上していなかった場合にはデータの把握ができていない企業もあるかもしれません。その場合、会計処理に必要なデータをどのように把握するか、システムを含めた検討が必要になるかもしれません。
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